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どこにも依りかからず、しなやかに立つ芸術家。家 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 『1日3時間しか働かない国』発売記念 著者シルヴァーノ・アゴスティ独占インタビュー |
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大阪ドーナッツクラブがお宝アーティストとして少しずつプッシュしてきたイタリアの才人シルヴァーノ・アゴスティ。彼の代表作である小説『1日3時間しか働かない国』![]() ![]() (上の画像は、イタリアで出た原書のふたつの版の表紙) ハムエッグ大輔(以下、ハムエッグ):こんにちは、はじめまして。ではないですね、考えてみたら。お忘れかもしれないけど、僕、一度映画館でアゴスティさんのサインをもらったことがあるんですよ。 シルヴァーノ・アゴスティ(以下、アゴスティ):こんにちは。そうだね、あのとき以来だね。 ―がっちり握手。ハムエッグ、玄関のドアを閉めようとする。 アゴスティ:ああ、ドアは開けっ放しにしといて。そうしておくのが好きだから。いつも世界とつながっていたいのさ。ところで、これを見てくれ。日本語版の表紙を受け取ったんだよ。なんて素晴らしいんだ! ―アゴスティ、パソコンのモニターで日本語版『キルギシアからの手紙』、『1日3時間しか働かない国』(マガジンハウス)の表紙をハムエッグに見せる。 ![]() ハムエッグ:はい、はい。それ、僕も見ました。おめでとうございます。 アゴスティ:この字が「日」って読むの? でこれが「時間」? ハムエッグ:えーっと、これが「日」で、これが「時間」ですね。で、これが「国」。 アゴスティ:なるほど。 ハムエッグ:あのー、日本語版ではいろんなことを考慮してこのようにタイトルが変わってしまってるんですけど、それについてはどうお考えですか? アゴスティ:いや、ぜんぜんかまわないよ。それぞれの国に適した形で出版されるのが一番だし、当然のことだと思ってる。そして同時にどんな国、どんな人間でも、根本は変わりないんだよ。本質的な生活は喜びや感動の中にあって、現実的な生活は規則の中に押し込められてる。いいかい、本質的な生活を送るというのは、寓話のような世界に入ることなんだ。わかる? フェアリーテイル。 ハムエッグ:『1日3時間〜』の世界を貫く考え方ですね。 アゴスティ:そう、キルギシアの人たちは現実的な生活を抜け出し、本質的な生活を始めた。そしたら、彼らの現実は、いつのまにか寓話的なものになるんだ。 ハムエッグ:そう、その寓話的空気感についてなのですが、僕はこの本を読んで、『星の王子さま』(Le Ptit Prince)に似た印象を持ったんですよ。また、『1日3時間〜』が掲げる理想郷は、トマス・モア(Thomas More)の『ユートピア』(Utopia)に近似しています。日本の出版社の方は、中国の老子の思想の影響がそこかしこに垣間見えるとも言っておられました。このような文学作品からの影響というのは、実際に受けられたんですか? アゴスティ:いや、トマス・モアにしろ老子にしろ、そして例えば釈迦でもキリストでも誰にせよ、みんな大きく「人間」、「人間らしさ」という概念から影響を受けたんだと思うよ。残念ながら、それはこの世界ではあまり大事にされていない。というか、存在すらしていないんじゃないかな。「人間」として生まれ、4・5歳を過ぎた頃、みんな誘拐されてしまうんだ。そして税理士に、教皇に、天皇に、または芸術家に、映画監督に姿を変えられてしまう。それらはもう「人間」ではないんだ。例えば「猫」について考えてみよう。猫には税理士も教師もないだろう? 「猫」はいるけど「人間」はいない。妨げられているんだよ。でも、もうすぐ子供たちが安心して「人間」に育つ時代が来ると信じているよ。木やカモメや、さまざまな自然界の生き物たちが育つように。だから、「人間」を重んじるすべての人間が通奏低音として同じ事を言うわけなんだ。4歳の子供だって、僕と同じことを言うかもしれない。僕がもっとも影響を受けたのは、大木のように僕の中で育った幼少期のそんな思想なんだ。 ハムエッグ:なるほど。えーっと…、なんだかテープレコーダーのスイッチが入ってないのにいきなりインタビューが始まっちゃいましたね。うちのポンデ雅夫がよく言ってました。アゴスティさんはいつもスイッチが入ってる人なんだって。よし、テープがまわりました。改めまして、日本での『1日3時間〜』発売おめでとうございます。これが初めての海外出版ですか? アゴスティ:いや、というか、実際のところ、少し前までイタリア国内でも自分の本が本屋に置かれることなんて想像してなかったくらいさ。本を書くというのは、僕にとって、母親が子供を産むみたいなもんなんだ。僕があーだこーだ決めるんじゃなくて、自然と作品ができあがる。こうやって『1日3時間〜』が生まれたとき、僕はその子を眺めてこう思ったんだ。う〜ん、こいつは世界中の「人間」たちに気に入られるぞ。そう言ってその子にキスしたよ。するとその子が勝手に育っていったんだ。今、イタリア国内では、既に6万部売れているんだけど(註:イタリアの人口は日本の半分)、そうしているうちにあちこちからお声がかかってね。スペイン、フランス、アメリカ、ロシア。友達に読ませたいからっていう理由から、それぞれの国で、本が出来上がっていったんだ。自費出版だね。 ハムエッグ:そして、今度は日本にやって来た。 アゴスティ:いや、日本から出発するんだよ。 ハムエッグ:じゃあ、その出発に際して、日本の読者の方々にメッセージをお願いしてよろしいでしょうか? アゴスティ:日本の読者に限らず、みんなに同じことを言ってるんだけど、「自分の価値を発見してほしい」ということ。えーっと、日本でいちばん有名な画家って誰? どんな時代の人でもいいんだけど…。 ハムエッグ:画家ですか?? え〜、え〜、たとえば、写楽ですかね? アゴスティ:シャラク! 知ってるよ。じゃあ、シャラクの最高傑作があるとするよね。確かにその作品はすばらしいんだけれど、それと同時に、腰のひん曲がったよぼよぼのおじいさん、いや、どんな日本人にも、そのシャラクの最高傑作と同じだけの価値があるんだ。自分に価値があることを発見すること。それは、残酷さを発見することでもあるんだ。その人に内在する残酷さ。するとどうだろう、その人は、自分を抑圧してくる人に対する屈折した感謝の気持ちが消えていって、代わりに自由を望むようになるんだ。自由というのはいいもんだよ。だから、自分が最高傑作であると知覚すること。それが僕から読者への究極のメッセージかな。 ハムエッグ:ありがとうございます。ところで、「1日3時間しか働かない」生活が物語の中で展開されているわけですが、アゴスティスティさん自身の生活はどのようなものなんですか? アゴスティ:17歳のときに家を飛び出したんだけど、それから1日3時間以上働いたことはないよ。ほとんどの時間を、僕は自分自身のために使っているよ。 ハムエッグ:ははははは! すごいですね! アゴスティ:もちろんさ。物語の中には、僕の生活を体現した国民を登場させたんだよ。僕の中にはふたつの政府機関があるんだ。用件を手っ取り早く済ませるものと、僕の生活を向上させるもの。言わば、キルギシアにあるさまざまな省庁とおんなじだね。道路向上省、人間関係向上省。向上させたいことの数だけ、それに見合った機関があるのさ。 ハムエッグ:じゃあ、アゴスティさんの生活は、まさにキルギシアの生活ってことですね。 アゴスティ:その通り。僕はキルギシアの国民第1号だよ。そして、キルギシアはすべての人類の中に広がっていくよう定められている。理由は簡単さ。自由ってやつは伝染するんだ。「あいつは自由なのに、なんで俺は違うんだ!?」ってなもんさ。日本人が何かにつけて従順だとよく聞くけれど、それは足かせがあるからというよりも、自由を想像して膨らませる力が足りないからかもしれないな。僕は1日最低5、6時間は遊んでいる。この世界と、壁と、人々と、子供と、そして本と遊ぶ。そうやって、抑圧的ではなく、生産的でクリエイティブな仕事ができるんだ。1日12時間働くことは、日本人を従順にさせるためにとても有効かもしれない。でもね、幸せな人間の3時間は、不幸な人間の9時間よりも2倍は生産性がある。だから、いつかはこの貪欲で恐ろしい産業というサメたちも、幸せになったほうがよっぽど稼げるって理解する。そしてこう言うのさ。「じゃあ、幸せになろうか」ってね。 そうだな、僕は日本の読者にこう言おうか。僕は永久に穏やかな暮らしを謳歌してますよって。家があって、その家のドアは開けっ放しで世界と通じ合ってる。ここには、無数の友達や愛、大いなる芸術家が訪れるんだ。何か困ったことがあると、僕はマーティン・ルーサー・キングかガンジーにでも相談する。彼らもまたキルギシアの住人であり、僕の生活を構築する一部であるかのように、僕といっしょに生きているんだ。 ハムエッグ:貪欲なサメたちということですが、この物語はある視点から見ると現代社会に対する痛烈な批判という風にもとれますよね…。 アゴスティ:現代社会というのは…、技術革新による奇跡であると同時に、人類を揺るがす大災害でもあるね。キルギシアは社会的ピラミッド構造を変化させて、人々の生活を一から創りなおすための提案なんだ。ピラミッドっていうのは上に権力者が立って、土台に希望のない人々がいる。キルギシア社会は真球なんだ。中心には本質的な生活があり、みんな、すべての人がそこから等距離にあるんだ。 ハムエッグ:ところで、なぜ物語の舞台をキルギシアに設定したんですか? この名前ってあなたの造語? アゴスティ:いやいや、まったくの造語ってわけじゃないよ。中国の西に位置するキルギス共和国から取ったんだ。そこのとある地方を旅したとき、道で会う土地の人たちが、みんな、みんなだよ、僕を見るなり「こんにちは〜!」って言うのさ。僕は「どこかで会ったっけ? 何か一緒にしたっけ?」って訊いたよ。でも、そうじゃなかったんだこれが。彼らは自由な放牧民なんだけど、道すがら出会う人すべてが「人間」になるんだ。僕はこの体験から、物語の舞台をキルギシアという名前にしたのさ。 ハムエッグ:なるほど。ありがとうございます。では、そろそろ最後の質問です。次なる作品として今映画を製作している途中だと聞いたのですが。どうですか? アゴスティ:まあ…、僕はいつも作品ができる10年は前からそういう風に言うんだよ。 ハムエッグ:ははははは。でも、何かしら準備はしてるんじゃないんですか? アゴスティ:いや、いや。僕は普通に生活しているだけ。僕は2037年に死のうって決めてるんだ。2037年、ちょうど僕は99歳になるんだけど、その頃はもう十分って具合に達観してるだろうからさ。そして死ぬ1日前に、僕の人生が終わるお祝いとしてセックスするんだ。今後に関してはそういう計画があるだけだよ。 (このインタビューは、2008年6月23日に行われました) いかがだったでしょうか。いつも饒舌なアゴスティは、実は他にも示唆に富んだ話をたくさんしてくれたんですが、今回はキルギシアにまつわるものに限定してご紹介しました。新作映画については、ハムエッグ大輔は見事にはぐらかされましたね。でも、僕たちは知っています。こっそりいろいろ準備していることを。それはともかくとして、そう遠くない将来、日本でもアゴスティの映画を上映できるよう、僕たちは僕たちで、彼に負けじと準備しています。こちらもお楽しみに。 ▲このページのトップへ戻る |
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