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まどフィンの『ぴよぴよ漂鳥』
2008年4月25日 須賀敦子とナタリア・ギンズブルグ 〜『ある家族の会話』を読んで(閑話の回)〜
  新潮社に、年4回発行の季刊誌『考える人』という雑誌がある。最新号の2008年春号は「海外の長編小説ベスト100」と題して、日本の129人の作家や翻訳家、批評家の選ぶ海外文学ベスト10や、アメリカ、イギリス、フランス、ノルウェイの新聞社や大学、批評家らが選んだ世界の文学ベスト100などが紹介してある。

  私は子供の頃から、外国の文学が大好きで、小学生の頃に読んだ、「笑い」とか「愛」とか、「幽霊」とかテーマ別に分けられた海外文学アンソロジーから海外文学の魅力に嵌っていった。日本の文学が嫌いだったわけではないが、遠くの世界を感じたいという欲求が強かったのか、読む割合は海外文学に対して一割ぐらいだったと思う。ただ、ある程度の年になって、「趣味は何ですか?」と聞かれて、「読書です」と答えた後に、「どんな本が好きですか?」と聞かれ、「海外の文学ですかね」というと、大体の人に困ったような顔された。その経験から、海外文学というジャンルのくくり方がおかしいのかな、といつも思っていた。でも昨日、この雑誌の特集を見つけて、「ああ、なんだ、海外文学っていう括りも認知されてるんだ」と一先ず安心した。


  小中学生の頃は、ドイツ語圏、イギリスの作家が好きで、高校生になるとフランス語圏の作家の作品が好きになった。大学になると、イタリア文学を知り、その一方、子供の頃はどうしても惹かれなかったアメリカ文学(トム・ソーヤーとハックルベリイ・フィンは別。子供の庭の永遠の友人。ポーも別。ポーの作品は、官能と幻惑を飲み込んだ極彩色の裏羽を隠し持った大烏。謎の部屋の窓の外の枝で、いつもこちらを見張っている)、そして、文学界の流行から大分遅れ気味だけれども、ラテンアメリカの作家達の作品が面白くなってくる。その中でも好む海外作家や作品があって、大人になって好きな日本人の翻訳家や作家の書評を読むようになると、不思議なくらい好きなものが被ったりして、これは好みに関する地下水脈というものがあるなと、大して読み解く力のない者のくせに、ニヤつくことがある。ただ、このコラムの主人公たるイタリア文学であるが、実は、他国の作品ほど多く親しんでいない。ひとえに、他国のものに比べて、圧倒的にイタリア文学が翻訳され出版されている数が少なく、また、日本において海外文学が親しまれてきた歴史を考えると、西欧の思想文化を取り入れんとする憧れから入っているから大国の作品が多い。そしてなにより、イタリアの国家統一が19世紀後半という歴史も、他国に比べて日本で認知されているイタリアの作家や文芸作品の数が少ないことに影響しているはずである。



  雑誌「考える人」の2008年春号、ノルウェイ・ブック・クラブ選(世界54カ国の作家100人が選出)の2002年海外文学「古今の名作ベスト100」でも、イタリアの作品は、イタロ・ズヴェーヴォ(Italo Svevo)の『ゼーノの苦悶』(La coscienza di Zeno、1926年)とジョヴァンニ・ボッカッチョ(Giovanni Boccaccio)の『デカメロン』(Decameron、14世紀)の2作品のみ。日本の作品も、川端康成の『山の音』と紫式部の『源氏物語』だけなので、イタリアのことをいえないけれども、圧倒的に名作に挙げられている数が少ない。129人の日本人作家、翻訳家の挙げた海外の長編小説ベスト10でもイタリア人作家の作品は、ダンテ(Dante Alighieri)、イタロ・カルヴィーノ(Italo Calvino)、アルベルト・モラヴィア(Alberto Moravia)、ウンベルト・エーコ(Umberto Eco)、そしてナタリア・ギンズブルグ(Natalia Ginzburg)だけで、挙げた人の数も少ない。料理や美術といったイタリア文化には、気軽に触れられるようになってきたけれども、文学においては、作家や翻訳家など文学界に身を置く人たちにさえ、日本とイタリアのとの間の道はまだまだ細いことを痛感した特集だった。

  ただ、今回の特集で、個人的にうれしかったのが、翻訳家の藤本和子さん、岸本佐知子さん、そして作家の江國香織さんがギンズブルグの作品を挙げていたことだ。好きな翻訳家や作家との小さな地下水脈をまたみつけることができて、ただ単純に万歳!  (つづく)


      



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