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ドーナッツたちのコラム

悩ましき翻訳の日々
作品について

  =タイトル=
   『天国への帰り方 まるかじり』   訳:角野チュロス  監修:ポンデ雅夫
  =舞台=
   しょぼくれた家のリビング
  =登場人物=
   テレーザ・ママ(母親)、娘のピーナちゃん(娘)、息子のベッポくん(息子)、幽霊のピエーロ(幽霊)、レデント司祭さま(司祭)、幽霊の妻ルクレツィア(妻)、霊媒師(霊媒)、占い師(占)。 注:括弧内は脚本上の略記です。
  =物語=
   テレーザ・ママとその子供たちは、死んだピエーロが隠した宝くじの賞金を、見つけ出そうとしています。彼らは霊媒師にたのんでピエーロの幽霊を天国から呼んでもらうことに。ピエーロの幽霊は現れました。しかし、それは彼ではなく「別のピエーロ」。さらに、その間違って呼び出されたピエーロは、天国への帰り方を知りませんでした…

  このコーナーでは、カミッロ・ヴィッティチ(Camillo Vittici)の喜劇“Il fantasma del povero Piero”の翻訳を連載形式でお届けしていきます。2006年11月に大阪外国語大学で行われたイタリア語劇で上演された作品です。上演時の訳を洗いなおした新訳で皆さんのご機嫌をうかがいます。お楽しみください。
  なお、この作品は原文を作者のホームページよりダウンロードしてお読みいただけます(リンク先トップページ、左側の作品一覧からどうぞ)。興味のある方は、ぜひ対訳させながらお読みください。有益かどうかは保証しかねますが、たとえばイタリア語を学んでらっしゃる方には何かの参考になるかもしれません。

『天国への帰り方 まるかじり』 第四回

(一瞬の静寂の後、戸をたたく乾いた音。テレーザ・ママは立ち上がり…)
 
母親 マリア様、どうぞ私たちをお守りください
霊媒 奥さんっ、立ち上がらないで! すべて台無しになります。座ってください! 霊が応えました。 (一瞬の間) ピエーロさん! そこにいるなら、もう一度戸をたたいてください。 (戸をたたく音) ほら、霊はそこにいるのです。あなたたちは集中して。ピエーロさん! あなたは現世に降り立ったのです。そこにいるのですね? わたしたちは、あなたの話を聞きたい。話してくれますね? (舞台の奥からスポットに照らされながら幽霊が登場。白い服を着ている。誰も彼に気付かず) ピエーロさん、話すことができないのですか?
幽霊 話せないことはないさ。オレに何か用ですか?
母親 (ちいさな声で) ベッポちゃん、ピーナちゃん。ママ、心配だわ。上手く行くかしら?
霊媒 では、ピエーロさん、答えてください。どこに宝くじの賞金を隠したのですか?
幽霊 宝くじの賞金だって? オレは宝くじなんて当てたことないよ。前にバザーでトイレット・ペーパーを当てたことがあったけど。
 
(原文7ページ)
 
母親 (ちいさな声で) 霊媒師さん、ピエーロはうそつきなんです。だまされないでくださいな。ピエーロは宝くじの賞金を当てたんです。これは確かなの。
霊媒 それじゃあ、ご自分でおっしゃってくださいな。
母親 わ、わたしが?!
 
霊媒 はい。
母親 ピエーロ… ピエーロ…?
幽霊 なんです?
母親 ん? でも、ほんとうにピエーロなの?
幽霊 まさしく、オレはピエーロだ。
母親 それじゃあ、最愛の妻テレーザの質問に答えなさいね。
幽霊 テレーザだと? そんなやつ知らないぞ。
母親 ほへ? わたしを忘れたというの? ベッポちゃんもピーナちゃんも忘れた?
幽霊 知らないね。
母親 霊媒師さん、だまされないで。彼はウソをついてるんです。
霊媒 あの世から来た者よ、あなたは本当にピエーロなのですか?
幽霊 ああ、そうだよ。だから呼んだんじゃないのか?
霊媒 う〜ん、しかし、本当にピエーロ・デル・メンガさん?
幽霊 なんだと、デル・メンガ? 確かにオレはピエーロだが、ピエーロ・サポネッタだ。
霊媒 では、あなたはピエーロ・デル・メンガさんじゃない?
幽霊 そうさ。どうやら人違いだったみたいだな。オレはピエーロ・デル・メンガじゃないよ。
霊媒 じゃ、どうしてここへ来たのですか?
幽霊 それはだな、誰かがこのあたりで「ピエーロ」を呼んでるって言うからだよ。それで、はるばるやってきたんだ。しかし、とんだ勘違いをされたもんだ。
霊媒 あなた、生前はどこに住んでいたんですか?
幽霊 悲しみ通り26番地さ。
霊媒 どうして亡くなったんです?
幽霊 それがわからないんだよ。医者はオレのことを元気そのものだと言ってたんだから。女房はオレが酒を飲みすぎたんだと言いふらしてたがね。それより、もういいだろ? 帰らしてもらうぜ。
霊媒 ピエーロさん、間違って呼び出してしまってごめんなさい。我々はもう一度、デル・メンガさんを呼び出してみます。あなたはお帰りください。
 
(スポットが消え、ピエーロは部屋の角にある椅子に腰掛ける)
 
霊媒 みなさま、ちょっとした手違いで、我々は別の霊を呼び出してしまいました。明晩にでもやり直すことにしましょう。では、電気をつけてロウソクを消してください。 (起き上がって) では、また明日の晩。…夜の深い闇が、あなたがたを待っていますよ。うふふ。
息子 アーメン…
母親 あ〜あ、もう幽霊はうんざり。
おやすみなさい、霊媒師さん。今日はありがとう。また明日の晩ね。
 
(霊媒師退場。一同、テーブルにつく)
 
息子 へぇ〜、死者と話すことができるなんてね。
でも、パパの霊と会えなくて残念だったわ。
母親 ピエーロという名前の人は何人いるのかしらねぇ。聖ピエーロさまが来なくてよかったわよ、ほんとに。でも明日の晩は、霊媒師さんにしっかりとパパの霊を呼び出してもらわないとね。また変なのが来たらやだわ。
今日はもう遅いし、わたし明日バイトがあるからもう寝るわ。その前に、テーブルをかたづけとくわね。じゃ、おやすみ。 (立ち去ろうとしたピーナちゃんは、後ろの肘掛け椅子で座っているピエーロの幽霊に気付く。彼女は大声で叫ぶ) ママっ! ベッポ! たいへんよ!
母親 なに?ゴキブリでもいたの?
もっと恐ろしいものよ。見て!
 
(他の2人もピエーロの幽霊を見る)
 
母親 え…? この人って…!
幽霊 ああ、オレだよ。
息子 さっきの幽霊?
幽霊 そうさ。オレにとっちゃ、とんだ災難だよ。
母親 あの世に帰らなくてもよろしくて?
幽霊 呼ばれたはいいがな…。
息子 なんで帰らないの?
幽霊 か、帰りたくないんだ…。
息子 どうして?
幽霊 この世に下りてくるのは楽なんだが、上がるのはたいへんなんだよ…
でもあなた幽霊なんだから、ふら〜っと上がればいいんじゃないの
幽霊 そう、かんたんにはいかない。というか…実はな…
息子 なになに?
幽霊 じ、実は帰り道を忘れてしまったんだ…



驚愕の事実が判明。あの世へ帰れなくなった人違い幽霊を相手に、三人はどうする? ご期待ください。
 

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